いすゞ自動車のROEは過去5年間で-329.8 ⇒ 80.4 ⇒ 44.8 ⇒ 29.3 ⇒ 31.5 (2007年3月期)と推移しています。

 特徴として、

  1. ほぼ右肩下がりを続けていること
  2. 国内平均値が9%であるのに対して、かなり高い水準にあること

が挙げられます。

 この間の分母の純資産(本来は自己資本だが純資産で近似)の推移は、

純資産額(百万円)

26,434 ⇒ 109,753 ⇒ 158,463 ⇒ 244,350 ⇒ 389,061

と10倍以上に成長する一方、分子の純利益は、

当期純損益(百万円)

-144,301 ⇒ 54,713 ⇒ 60,037 ⇒ 58,956 ⇒ 92,394

とこちらも着実に成長しています。

 

 2003年3月期には2.6%しかなかった自己資本比率も、2007年3月期には27.8%まで上昇し、もはや企業の存続性が疑われたような過去の状況にはありません。

 いすゞ自動車のROEについては、書籍「企業価値を創造する会計指標入門」の中(P.46)でも触れたように、2003年3月期まで4期連続の純損失を計上し、純資産が大きく毀損しました。その後は景気の回復や債務の株式化(DES)、トヨタからの資本参加などもあり、利益を確実に生みながらこれを純資産へと蓄積してきています。2007年3月期には営業利益で1,000億円企業の仲間入りも果たしています。

 ただし、配当は2005年3月期より始めていますが、配当性向は10%以下とまだ低い水準です。

 このように、財務の健全性や企業の存続性が問われるような企業において、リストラに一段落がついた後の急激な業績回復があると、ROEが異常値とも思える数値に達します。

 

 こうした企業では、それ以降は分子の利益水準を高めると同時に、分母の純資産を確実に積み上げていくことからROEは下がっていく指標となります。下がるべき指標であれば、それは目標指標にはならないでしょう。

 同じようなROEの推移が、日産自動車にも見られます。参照してみてください。

 

  1. ROEって何?(2007.7.19)
  2. ROEを目標とする企業たち(2007.7.24)
  3. ROEを要求する投資家たち(2007.8.1)
  4. 会社法施行によって、面倒になったROEの計算(2007.8.6)
  5. ROEは分解することで、その意味が見えてくる(2007.8.13)
  6. ROEを目標にしてはいけない企業たち(2007.8.20)
  7. ROE向上の有効手段は自社株買い

ROEをさらに深読みしたい方は、こちらの書籍をご覧ください