最近の日経新聞には、「自社株買い」という言葉が無い日がありません。国内、海外問わず、多くの企業が自社株買いを進めています。

 自社株買いをするとROEは必ず上がります。なぜなら、自社株買いをした金額分がマイナス項目として自己資本(ROEの分母)の中に記載されるためです。

 キヤノンのROEの推移を見てみましょう。キヤノンのROEは過去5年間で12.5 ⇒ 15.9 ⇒ 16.8 ⇒ 16.0 ⇒ 16.3 (2006年12月期)と推移しています。特徴として、

  1. 国内平均値の9%に対して、高い水準にあること
  2. 概ね右肩上がりを続けていること

が挙げられます。

 確かに国内平均は超えていますが、ROEの米国平均が15%~20%程度とすると、グローバル企業であるキヤノンのROEは、現状で満足という水準ではありません。

 そしてキヤノンのROEが2006年12月期は僅か0.3%の伸びであったことが気になります。業績絶好調であるはずなのに、なぜROE伸び率はいまひとつなのでしょうか・・?

 先のメルマガで取り上げた松下電器のように、ROEは優良企業であるほど、下がってしまう指標なのです。それは分子で稼ぐ純利益が、分母の自己資本の中にある利益剰余金として同時に蓄積されていくためです。

 そこで、分子の純利益は稼げども、分母の自己資本が蓄積しない手はないか・・。これを実現する手段が増配と自社株買いとなります。

 キヤノンはこれまで自社株買いは一切行わない企業でした。2007年3月期の連結配当性向は約30%なので、国内平均より少々高い程度です。

 キヤノンは株主に対してこれまで、多額の配当や自社株買いではなく、株価の上昇そのものによって直接的に応えてきました。

 株主が最終的に利益を得るのは、キャピタルゲイン(株価の上昇)かインカムゲイン(配当)です。前者で十分にリターンを還元していれば、必ずしも配当や自社株買いを行う必要もありません。

 しかし、さすがのキヤノンの株価も、ここ最近はやや頭打ち感が出てきました。そうすると、増配や、株価を高めるための資本政策(事業戦略ではなく)、具体的には自社株買いへの要求も、高まってくるでしょう。直近の国内株式市場の急落を受けて、キヤノンは8月24日から9月25日までに、1,000億円を上限とする自社株買いの実施を行うことを既に表明しています。

 キヤノンは2007年に入って、これで1,000億円規模の自社株買いを計4回、合計4,000億円実施することになります。

 キヤノンの今期の純利益予測(2007年6月中間期発表時)は約5,000億円なので、既にその8割は自社株買いで放出したことになります。

 今年中にあと1,000億円の自社株買いを行うことにでもなれば、「自社株買い性向」とでも言うべきでしょうか、遂に100%に達します。

 この結果、分子の純利益は増益しても、分母の自己資本は増加しないこととなります。結果としてROEの維持・向上へとつながっていくことになるでしょう。

 もちろんROEを高める王道は、分子の純利益の成長です。事業動向にやや陰りが見られるキヤノンですが、今後のキヤノンの事業動向にも、大いに注目しましょう。

 

  1. ROEって何?(2007.7.19)
  2. ROEを目標とする企業たち(2007.7.24)
  3. ROEを要求する投資家たち(2007.8.1)
  4. 会社法施行によって、面倒になったROEの計算(2007.8.6)
  5. ROEは分解することで、その意味が見えてくる(2007.8.13)
  6. ROEを目標にしてはいけない企業たち(2007.8.20)
  7. ROE向上の有効手段は自社株買い

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