年間40社ほどの企業を訪問して、企業内研修の講師を務める機会を得ています。選抜研修ともなれば、選りすぐりのビジネスパーソンたちが集まり、自ずと多忙な人たちの集合となります。そうした人たちの貴重な時間を研修の場に費やす以上、本で学べるファイナンスの基本的な理論や、最初からつまずくと分かっているFAQは、事前にある程度クリアした状態にしておきたい。研修の場は、自社や他社のケースを用いた、実践的な事業数値化力に重きを置きたい。絶対の正解のない企業活動を様々な角度から考察し、自分の考えを述べ、仲間から異なる意見を聞いて、そして大いに議論することがビジネススクールの醍醐味であり、企業活動に通ずるものです。これが本書の執筆をする上で、私の根底にあった考えです。
小難しい理論を分かりやすく伝えられるように、私が実際にビジネススクールの場で経験してきた学生とのやりとりを数多く入れました。ファイナンスをテーマとした本の執筆を行うにあたり、「日本のファイナンス力を高めるために、私が提供できるコンテンツはいったい何か?」と問いかけ、至った結論が本書の内容であり、構成です。社会人学生たちと行ってきた56のFAQについて、学生とのインタラクティブなやり取りを中心として考え方や意義を伝えています。
- 事業計画は何年間の予測を行うべきか?
- NPVとIRRの実務家としての有効な使い分けはどこにあるか?
- 事業計画ごとに割引率は変えるべきか?
- ターミナルバリューを入れるべきか否かの判断基準はどこにあるか?
- ROICとIRRの違いは何なのか?
これらはビジネススクールのファイナンスクラスの最頻出FAQと言って良いでしょう。これら疑問を抱くビジネスパーソンを念頭に置き、分かりやすく伝えることを意識しました。全56のFAQは、下記より参照できます。
本書をきっかけに、多くの読者がファイナンスの面白さと重要さを認識され、ファイナンス分野を深く掘り下げていく機会となれば、著者としてこれ以上の喜びはありません。ファイナンス理論を掘り下げることにとどまらず、事業計画に結びつけ、事業数値化を経て事業価値、企業価値の創出へと発展させる機会となることを願っております。それがすなわち、読者ご自身の価値の創造と発展につながることと信じています。
感想もぜひお寄せください。
大津 広一
56のFAQ 『ビジネススクールで身につける ファイナンス×事業数値化力』
- 「一般のビジネスパーソンがファイナンスを学ぶ意義ってなんですか?」
- 「なぜ機会メリットと言わずに、機会コストと言うのですか?」
- 「お金を預けた銀行が破綻してしまったら、どうなんですか?」
- 「デフレだったら、どうですか?」
- 「金利が5%とは、いまの日本で高過ぎませんか?」
- 「なぜ利益ではなく、キャッシュフローなのですか?」
- 「DCFを使う人って、社内でも限られた部門の人達だけですよね?」
- 「数字の肌感覚をつけるには、何かいいコツはありますか?」
- 「敢えて価値が低い方を選ぶことって、企業には絶対に無いんですか?」
- 「ファイナンスもアカウンティングと同じくらい大事なのに、なぜ普段扱う数値のほとんどはアカウンティングなのですか?」
- 「この2つは、別のものと考えるべきなのですか?」
- 「私たちの会社では、どちらをより重視した経営を目指せばよいですか?」
- 「決算発表って、過去の報告だけなんですか?」
- 「NPV法があるのに、なぜうちの会社は回収期間法なのですか? キャッシュフローを割り引くなんて、そんなこと実際に企業はやっているんですか?」
- 「先ほどの設問では5年目でキャッシュフローを止めていますが、6年目以降はどうなってしまったんですか?」
- 「回収期間法の年数は、どう設定すれば良いのですか?」
- 「IRRは高いほうがよいのですか、低いほうがよいのですか?」
- 「NPV法とIRR法って、向き、不向きはあるのですか?」
- 「日本と海外で、投資の意思決定手法の違いはあるのですか?」
- 「ROICという経営指標の導入が進んでいると聞きましたが、IRRとはどう違うのですか?」
- 「NPVは、P/L上の予測利益ではなく予測キャッシュフローの現在価値だと言うのに、予測FCFのスタートは、なぜP/Lの売上や営業利益なのですか?」
- 「アカウンティングのクラスで学んだフリー・キャッシュフローとは、どこが違うのですか?」
- 「会社から支払利息は流出するのでフリーではないはずなのに、なぜフリー・キャッシュフローの式からは引かないのですか?」
- 「なぜ『株主のものとなる』ではなく、『株主・金融債権者のものとなる』なのですか?」
- 「実際に支払うであろう税金とはズレませんか?」
- 「金融収益は入れないのですか?」
- 「利益に減価償却を足すとキャッシュになるというのが、どうもしっくり来ないのですが?」
- 「定率法と定額法だと、どっちが企業価値を高めるのですか?」
- 「定率法が企業価値を高めるのに、なぜ多くの企業が定額法に変更するのですか?」
- 「だらだらした式を、どうやって覚えたらよいのでしょうか?」
- 「計算はできるのですが、なんだかピンと来ません」
- 「そもそも永久にキャッシュが生まれるのに、なんで値段が決まるのですか?」
- 「不動産業界のキャップレートの式に、永久年金型の公式が似てる気がするのですが?」
- 「成長率が割引率を上回ったら、価値がマイナスになってしまいませんか?」
- 「永久のマイナス成長は、実務で許容されるのですか?」
- 「ターミナルバリューですべて決まってしまいませんか?」
- 「ターミナルバリューなんて、本当に算入して計算するんですか?」
- 「でもやっぱり、いやなことがリスクであって、よいことはリスクではないですよね?」
- 「私はいつも、ハイリスク・ローリターンで終わってしまうんですが、そんなことってあるのですか?」
- 「リスクとリターンの関係って、人生観にまで発展できませんか?」
- 「投資家からは簿価に計上された資金しか受け取っていないのに、どうして時価ベースで加重平均するのですか?」
- 「利益が減っているのに、株主はハッピーなんですか?」
- 「だったら、ひたすら借金したほうが株主はハッピーになりませんか?」
- 「株価が下がるとWACCも下がるって、おかしくないですか?」
- 「会社が実際に使っている割引率を見ることなんてできるんですか?」
- 「上場企業なら時価総額が株主価値だし、借金の額もすぐ分かるから、DCF法なんて使わなくても、2つの足し算で企業価値は簡単に計算できませんか?」
- 「企業価値を向上するためには、具体的に何をしたらいいのですか?」
- 「事業価値の合計額が、常に企業価値と等しくなるのですか?」
- 「シミュレーションをするのに便利なエクセルのツールってありますか?」
- 「カーボンニュートラルのための投資って、NPVはマイナスですよね?」
- 「M&Aのバリュエーションのアプローチを実際に見ることなんてできるんですか?」
- 「ヒトの価値なんていうものも、3つのアプローチで考えることはできるんですか?」
- 「1つのWACCで会社内にあるすべてのプロジェクトを評価することになるんですか?」
- 「WACCを使ったDCF法では、年度ごとに割引率を変えることは無いんですか?」
- 「株主資本コストは株主による理論上の要求リターンなら、これを使って株価の評価もできませんか?」
- 「同じ事業を営んでいれば、βは一緒と考えて良いのですか?」