「財務諸表から見える企業」第12回目は、現在何かと世間の注目を浴びている消費者金融業界を見ていくことにします。「儲けすぎ」と揶揄される利益構造は、PL上具体的にどのような姿となって現れているのでしょうか。融資額の総量規制の話題が出るほど拡大している資産規模は、BS上具体的にどのような姿となって現れているのでしょうか。

消費者金融業界大手4社(アイフル、アコム、武富士、プロミス)の決算は2006年4月末現在まだすべて揃っていませんが、ここでは4月27日に決算発表を行ったアコムの財務諸表を見ていくことにします。

まず例によって、アコムのイメージを、財務諸表上の言葉にすることから始めてみましょう。

  • 現在新聞紙上で消費者金融業界が話題になっているのは、刑事罰のある出資法の上限金利(年率29.2%)と罰則のない利息制限法の上限(年率15-20%)に挟まれた、いわゆる「グレーゾーン金利」での貸付が横行していることにある。ということは、アコムの融資額総額の20%から29.2%に相当する金額が、利息収入として出てくるはずなのでは?
  • アコムに発生する費用で大きなものを想像すれば、多店舗展開ゆえの家賃、大量に流されるテレビコマーシャルの広告宣伝費がまず思い浮かぶ。一方、ファーストリテイリングマクドナルドと異なり、店舗に販売員はほとんどいないので人件費は少なく、人の代わりにあるATMなどの減価償却費やリース料が多いのではないか? 同時に商品や原材料の仕入れもないので、原価に相当する費用もないであろう? 
  • 儲かっている業界なので、自らの事業で稼いだお金を次の融資に振り向けているはず。しかし、それではまったく足りないほどの大きな金額を、銀行などからの借入れによって資金調達しているのでは? いくら低金利時代と言っても、相応のお金を銀行から調達すれば、それなりの支払利息をアコムも銀行に対して支払っているのではないだろうか?
  • バランスシートにはどのような資産があるだろうか? 一般販売業や製造業と異なり、売掛金や棚卸資産、或いは有形固定資産や、特許権などの無形固定資産も想定できない。おそらく莫大な貸付金と、店舗賃借に伴う保証金があるくらいで、後は現金として手元にあまっている状況なのではないだろうか? 

それでは、アコムの2006年3月期の連結損益計算書(PL)と連結貸借対照表(BS)を見てみましょう。

■連結損益計算書と連結貸借対照表

アコム 損益計算書アコム 貸借対照表
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損益計算書(PL)

1.  アコムの2006年3月期の営業収益(一般企業の売上高に相当)は4,454億円、営業利益は1,103億円(営業収益比24.8%)、純利益は655億円(営業収益比14.7%)です。営業収益が意外に少なく見えるのは、金融業界の売上高は、あくまで利息や手数料などの実質的な儲けであって、取り扱い融資高ではないためです。そこで営業利益の1,103億円を見ることで、これまで扱った11社と比べても、ユニクロ(566億円 2005/8期)や、ヤフー(821億円 2006/3期)を凌駕し、花王(1,201億円 2006/3期)に匹敵する本業の収益力であることが分かります。 

2.  営業費用でもっとも大きいものは、貸倒引当金繰入額1,154億円です。営業収益の実に25.9%、つまり利息収入のざっと1/4に相当する元本・利息総額は、実際には回収できないことを示しています。利息返戻損失引当金繰入額237億円(営業収益比で5.3%)も大きいですが、これは日本公認会計士協会の求めに応じ、消費者金融各社が利息制限法の上限超過利息部分の返還リスクに備えて、引き当てたものです。これを合わせれば、営業収益の30%超に相当する金額が、回収できないこととなります。

3.  貸倒れや利息返戻以外の費目を多い順に並べると、従業員給与手当賞与336億円(営業収益比7.6%)、手数料321億円(営業収益比7.2%)、金融費用207億円(営業収益比4.6%)、広告宣伝費190億円(営業収益比4.3%)、賃借料137億円(営業収益比3.1%)となっています。 

4.  人件費が意外に多いのは、アコムの店舗は確かに従業員があまりいませんが(アコムのATMは”むじんくん”です)、本社オペレーション、信用管理、営業などでの正社員比率が高いと言うことでしょう。アコムとユニクロの人件費の総額は、実はほぼ同額の300億円強となっています。店舗数(2,102店舗)の多さと正社員比率の高さを”むじんくん”で抑制するアコム、販売員の多さをアルバイト・パート化することで抑制するユニクロが、結果としてほぼ同額の人件費を使っています。

5.  営業外収益、営業外費用には、特に主だった科目は見られません。本業に関わる財務活動としてのお金の貸し借りはここに至るまでの営業収益、営業費用にすべて含まれているわけです。ただ、それにしてもこれだけ儲かっている企業であれば、自社の財産運用によって、相応の営業外収益があっても良い気がします。この穏やかな営業外終始の動きから、アコムのバランスシートを見る前の時点で、おそらく現預金や有価証券などの金融資産をあまり手元には持っていない(言い換えれば、すべて事業活動に注入している)という仮説を立てることができます。

 

貸借対照表(BS)

1.  利息収入や手数料のみがPLのトップライン(営業収益)に出ることから、PL全体が思いのほか小さく見えたのに対して、バランスシートには顧客への貸付金総額が保有資産として出てきます。まずバランスシートの資産合計額を見れば、2兆1,066億円という予想通りの巨額の数値が現れ、この内の8割超に相当する1兆7,031億円が営業貸付金、つまりアコムの融資総額の年度末残高であることが確認できます。

2.  貸付金利に関する分析を試みてみましょう。1兆7,031億円の営業貸付金(BS)に対する営業貸付金利息(PL)3,893億円より、貸付金利22.9%(3,893億円/1兆7,031億円)がはじき出されます。アコムが決算説明会時に実際に発表した期中平均利回り(単体ベース)は22.6%なので、数値はほぼ一致しています。先に挙げた、出資法の上限金利(年率29.2%)と利息制限法の上限(年率15-20%)の間にある「グレーゾーン金利」に見事に落ちています。

3.  営業貸付金の次に大きい資産は、マイナス勘定になりますが貸倒引当金1,290億円です。これは、営業貸付金1兆7,031億円の7.6%(割賦売掛金1,314億円も合わせると債権の7.0%)に相当します。金額・人数をすべて平均値ベースでならせば、100人に7人が貸し倒れている計算になります。もうひとつ大きな費目では、投資有価証券が大幅に上昇し1,277億円となっていますが、これは株式会社オーエムシーカードなどの株式取得が主な要因です。

4.  PLの営業外収支から予測したように、現預金と有価証券を合計した、いわゆる手元流動性資金は、711億円であり、貸方の利益剰余金7,760億円の1/10以下です。資金を眠らせずに本業やM&Aに積極的に回し、余ったお金は株主に還元するという姿勢は評価できます。棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産も大した金額ではありません。差入保証金は105億円と少額に留まり、店舗数が1/3しかないユニクロの敷金・保証金225億円の半分しかないのは意外ですが、一店舗辺りの店舗面積の小ささを考えれば、妥当なところでしょう。 

5.  2兆1,066億円の総資産、1兆7,031億円の営業貸付金を回すために、アコムはどのような手段によって資金調達しているのでしょうか。有利子負債は長短借入金、コマーシャル・ペーパー、及び社債の総額で、1兆645億円と計算できます。1兆645億円の有利子負債(BS)に対する金融費用(PL)207億円より、資金調達金利1.9%(207億円/1兆645億円)がはじき出されます。アコムが決算説明会時に実際に発表した期中平均表面調達金利(単体ベース)は1.76%なので、数値はほぼ一致しています。貸付金額(1兆7,031億円)と有利子負債額(1兆645億円)もほぼ一致しているので、本業の融資ビジネスはすべて有利子負債で回していると表現することも可能です。 

6.  以上からアコムの収益構造を単純化すれば、
貸付総額1兆7,031億円 × (1 - 貸倒れ比率7%) × (貸付金利22.6% - 調達金利1.9%) = 3,279億円  (貸倒れ分の調達金利は少額なので省略)
ここから、貸倒引当金繰入額約1,000億円を除いた約2,000億円の営業費用を支払う結果、営業利益を約1,000億円創出・・・、ということになります。 

7.  最後にアコムの株主還元を見ておきましょう。アコムは決算説明会の場で、株主還元率(配当金総額+自己株式買付総額)/アコム単体当期純利益)を中期的に30%以上と設定しています(2006年3月期は、利息返戻損失引当金繰入額の計上などによって純利益が減少したため、同比率48.6%を達成)。株主還元率30%は、国内では決して小さい数値ではないですが、これだけ利益を計上している企業であれば、必ずしも満足水準ではありません。有利子負債をより多く調達して、株主還元を高めることも十分可能でしょう。また、株主還元率は、今後信販やクレジットカード事業など多角化事業の拡大に備え、連結ベースで議論するのが望ましいでしょう。

 

【今後の注目】 

アコムは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、創業ファミリーに次ぐ15.2%の株式を保有しており、MUFGにとっては持分法適用関連会社(アコムが計上する利益額の内、MUFGの持分比率分がMUFGの連結PL上に計上される)です。プロミスも三井住友フィナンシャルグループの傘下にあるように、今や大手銀行グループにとって、消費者金融事業は、重要な戦略サービスです。

昨今の超過金利や、過剰取立て問題に関連して、社会的な信用を失っている消費者金融業界ではありますが、現実として非常に多数の顧客(アコムが営業貸付金残高を有する口座数は345万件)があるのも事実です。必要な時に、必要なお金を、手軽に借りることのできるサービス自体は、今後も大手銀行との一蓮托生によって、維持発展していくことでしょう。

今後消費者金融業界の貸付金利がおそらく下がっていく一方、世の中の金利上昇に伴い、資金調達金利は上がっていくと予測できます。必然的にアコムの一件あたりの利ざやは、じりじりと下がっていくでしょう。顧客への説明責任強化のため、たとえば人員増による人件費増加なども、今後は想定されます。

しかし、消費者金融業界は、貸付金利の下落、利ざやの減少を、むしろビジネスチャンスととらえることもできます。駅前一等地にあり、必要な時、必要なお金を、手軽に借りることのできるサービスが提供する価値は、今後も無くなることはありません。むしろ貸付金利の低減によって、これまでは消費者金融からの借入を躊躇していた層にまで、マーケットが拡大していく可能性も十分にあります。

消費者金融業界に求められるのは、今後より多様化していく顧客のリスクプロファイルに合わせて、多様な金利設定とリスク管理、そして顧客の視点に立った総合サービスの強化にあります。

 

 

シリーズ 財務諸表から見える企業

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