2006年5月1日に施行された会社法に基づく決算書からは、「資本の部」がなくなりました。変わって「純資産の部」と呼ばれるようになりましたが、厄介なのはその中身が微妙に異なることです。

 昨年4月までのROEの計算では、分母のEquityには「資本の部」を使っていました。それがなくなった会社法の基でのROEの計算はEquityに何を使うべきか。

 選択肢は以下が考えられます。

A. 新たに生まれた「純資産の部」を使う
B. 純資産の中に新たに設定された「株主資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式を総称)」を使う
C. 式の一貫性を保つために、これまで通りの資本の部を、自分で手計算して使う

 正解はCなのですが、こんな疑問を思って正解を知りたい場合、皆さんはどうしましょうか?私なら「ROE」、「会社法」、「計算」などとキーワードを並べて、ネットでまずは検索してみます。それで引っかかったサイトの中では、下記が分かり易いでしょうか。
http://money.jp.msn.com/investor/stock/columns/ Columnarticle.aspx?ac=fp2006071100&cc=02&nt=02

 式がどうなったかは、上記のサイトなどを見れば幾らでも分かりますので、ここでは、理論的にはどうあるべきか?を少々考えてみましょう。

 

 会計指標を割り算で計算するとき、特に分母がBSで分子がPLの場合にもっとも気をつけなくてはいけないのは、分子と分母の主語が一致しているかということ。一致していないと、出てくる数値に理論的な根拠はないことになります。

 分子の純利益は確定とします。そうすると、分母のEquityについて、まず『A. 新たに生まれた「純資産の部」を使う』は選択肢になりません。なぜなら、分子の純利益を計算するときに少数株主利益は引いているのに、分母の純資産には少数株主持分が入っているためです。

 分母に純資産を使ってしまうと、分子と分母で主語が異なります。分子は親会社のみを株主としているのに、分母では少数株主持分も含めているので、矛盾します。

 では、『B. 純資産の中に新たに設定された株主資本を使う』はどうか。これは実は理論的には意外と正しい選択肢と考えられます。具体的に考えてみましょう。純資産に含まれて株主資本に含まれない比較的大きな勘定に「その他有価証券評価差額金」があります。これは保有株式を時価評価した際の貸方サイドの増減分(税効果考慮後)です。

 この株式を時価評価する影響は、通常PL上の純利益には反映させません。よって、本来純利益と合致させる上では、分母のEquityには「その他有価証券評価差額金」を含めない「株主資本」の方が理に適っているとも言えます。そうではない現行のROEでは、

 保有株の株価が上がる⇒ROEの分母のEquityのみが膨らむ⇒ROEが下がる

 という現象を引き起こしています。ここだけを捉えると

 株価が下がりそうな株式を保有する⇒株価が実際に下がると分母のEquityが凹む⇒ROEが上がる

 という妙な話が成立していることになります。

 ただ、結論はC. 式の一貫性を保つために、これまで通りの資本の部を、自分で手計算して使うとなりました。何よりも指標の一貫性、或いは欧米との一貫性を重視したと言えるでしょう。

 このように見ると、ROEの計算式は、理論的には必ずしも正しくありません。

 同条件で計算したROEを時系列で見る意義はあっても、数値自体の妥当性を議論するには、こうした弊害も認識して行うべし・・・、ということが見えてきます。

 今日は少々テクニカルであまり面白い話でなかったかもしれませんが、分母と分子の主語の一致というのは、どんな指標を計算する上でも、汎用的に考えるべき概念です。

 PER、EV/EBITDAなどの株価や企業価値評価式でも同様に確認してみてください。

 

  1. ROEって何?(2007.7.19)
  2. ROEを目標とする企業たち(2007.7.24)
  3. ROEを要求する投資家たち(2007.8.1)
  4. 会社法施行によって、面倒になったROEの計算(2007.8.6)
  5. ROEは分解することで、その意味が見えてくる(2007.8.13)
  6. ROEを目標にしてはいけない企業たち(2007.8.20)
  7. ROE向上の有効手段は自社株買い

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