松下電器産業のROEが過去5年間で△0.6→1.3→1.7→4.2→5.6%(2007年3月期)と推移してきたことは、先のメルマガ「ROEを目標とする企業たち」で紹介しました。
バックナンバー ⇒ http://blog.mag2.com/m/log/0000130865/108787984.html
ところがこれらのROEの数値だけ見ていても、右肩上がりで増えてきていることはわかっても、なぜ増えているのかは全くわかりません。
そこで有効なのが、ROEを3つの掛け算に分解することです。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
直近の松下のROE5.6%を分解してみると、以下のようになります。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
5.6%? = 2.4%???????? × 1.15倍 ??? × 2.02倍
これを時系列で計算し、グラフにしてみれば、どこが改善していてROEが上昇しているのかが見えてくるので、興味ある方はやってみてください。
さて、3つの分解要素は業界によってその水準も異なるので、一概に松下のどれが良くてどれがダメ、という議論はできません。そこで、松下の中期計画で松下自身が目標として掲げている主要な数値を抜き出すことで、松下自身がどこを伸ばしたいと考えているのかを考えてみましょう。
松下は2010年の目指すべきグローバルエクセレンスな企業として、以下を具体的な数値目標として開示。
- 売上高10兆円以上(2006年度は9兆1,000億円)
- 海外売上比率60%以上(2006年度は49.3%)
- 売上高営業利益率10%以上(2006年度は5.0%)
- ROE10%以上(2006年度は5.4%)
- No.1シェア商品比率30%以上(2005年度は23%)
ROEに関連付けて考えると、営業利益率を2倍にすることが注目されます。現在の営業利益率は5%なので、10%が達成できれば、ROEは現行の5.6%×2倍=11.2%となります。目標ROEは即達成です。
では、営業利益率10%はそう簡単に達成できるものなのか・・・。国内電機業界での勝ち組ともてはやされるまでに復活した松下が通った過去7年ほどの厳しい道のりより、おそらくハードルは険しいものと思われます。
成熟した主力市場の国内と、競争の激しい海外市場において、成長と利益率の両方を追求することは、たやすいことではありません。が、ここでは仮に営業利益率10%が達成できるものとしましょう。そうすればROE10%は達成でしょうか?ROEの3つの分解を2つにまとめると、
ROE = 売上高純利益率 × 売上高/自己資本
となります。毎年計上する利益は自己資本の中の利益剰余金として蓄積されます。よって、
営業利益率が高まる ⇒ 利益が計上される ⇒ 自己資本が膨らむ ⇒ 売上高/自己資本が下がる ⇒ ROEは頭打ち となります。
利益を倍にしようと言うわけなので、それが本当に実現されれば、自己資本はかなり膨張していくはずです。
よって、成長と利益率の向上だけではROEの達成は行えず、自己資本の圧縮、つまり手厚い株主還元が求められていくことになります。
では今度は、株主還元に関する松下のことばを中期計画から拾ってみましょう。
- 連結配当性向30~40%を目安に安定的かつ継続的な配当成長を目指す ⇒ 株主資本配当率の向上
- 成長戦略に応じた機動的な自己株式取得の継続 ⇒ 1株当たり株主価値の向上
とあります。
相当の金額の自社株買いを行わなければ目標ROE10%は達成できませんが、どこまで本気なのか?資金調達において、借金への思い切ったレバレッジをするような経営判断は行われているのでしょうか?ROE10%目標!とは語ったものの、事業面のみならず、財務面においても、いまひとつ具体的なものが見えてこない印象も受けています。
ここまでは目標数値を確実にクリアし、見事な復活を遂げてきた松下電器。新社長の下でも、国内を代表する製造業としての果敢な政策を期待しましょう。
松下の中期計画は下記のサイトから閲覧できます。
⇒ http://panasonic.co.jp/vision/vision2007/
- ROEって何?(2007.7.19)
- ROEを目標とする企業たち(2007.7.24)
- ROEを要求する投資家たち(2007.8.1)
- 会社法施行によって、面倒になったROEの計算(2007.8.6)
- ROEは分解することで、その意味が見えてくる(2007.8.13)
- ROEを目標にしてはいけない企業たち(2007.8.20)
- ROE向上の有効手段は自社株買い
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